【Music RTA】楽曲『駅』におけるダイナミクスおよび周波数特性の対比解析:中森明菜『CRIMSON』(2012) と 竹内まりや『Expressions』

Music RTA

1. 測定前提条件と信号処理上の注意点

今回の「Music RTA」第22項では、同一の旋律および楽曲構造を持つ楽曲『駅』を対象とし、異なるマスタリング工程が施された2つの音源の物理特性を対比させます。本解析では、標本化定理に基づき44.1kHz/16bitで記録された以下のCD音源をリファレンスとしました。

  • 中森明菜版: アルバム『CRIMSON』(2012 Remaster版)収録の『駅』
  • 竹内まりや版: アルバム『Expressions』(2008年リマスタリング相当)収録の『駅』

解析精度向上のため、事前に192kHzへのアップサンプリング処理を実施しています。デジタル信号処理において、0dBFS付近の信号をリサンプルする際、補間アルゴリズムにより波形の頂点が0dBを超えるインターサンプル・ピーク(Inter-sample Peak)が発生し、補間歪みを誘発する特性があります。この演算上の歪みを回避するため、本プロジェクトの技術指針に従い、両音源に対して事前に1.5dBのアッテネーション(レベル引き下げ)を適用し、ヘッドルームを確保した状態で解析を行っています。

本記事の解析に使用した計測システムの詳細や、binaural.jpがMusic RTAを行う目的については、こちらの[カテゴリー説明ページ:Music RTAの背景]をご覧ください。

2. 各音源の波形・RTAグラフ比較

1. 駅 中森明菜 CRIMSON (2012 Remaster) (CD : 44.1kHz 16bit)

CRIMSON (2012 Remaster) Cover
CRIMSON (2012 Remaster)
(CD : 44.1kHz 16bit)
駅 中森明菜 (CD : 44.1kHz 16bit) 波形
駅 中森明菜 (CD : 44.1kHz 16bit) 波形
駅 中森明菜 (CD : 44.1kHz 16bit) RTA
駅 中森明菜 (CD : 44.1kHz 16bit) RTA

2. 駅 竹内まりや Expressions (CD : 44.1kHz 16bit)

Expressions Cover
Expressions (CD : 44.1kHz 16bit)
駅 竹内まりや (CD : 44.1kHz 16bit) 波形
駅 竹内まりや (CD : 44.1kHz 16bit) 波形
駅 竹内まりや (CD : 44.1kHz 16bit) RTA
駅 竹内まりや (CD : 44.1kHz 16bit) RTA

3. 時間軸解析:振幅分布とダイナミクス制御

Audacityを用いた楽曲『駅』の両バージョンにおける振幅エンベロープの解析結果を記述します。

  • 中森明菜版(2012 Remaster): 全体として平均振幅レベル(RMS)が低く抑えられており、ピークに対する十分なヘッドルームが確保されています。音量の最小・最大幅によるダイナミクスが大きく保持されており、急峻な立ち上がりを示す過渡応答(トランジェント)をリミッターで遮断せずに維持する設計思想が読み取れます。
  • 竹内まりや版(2008年リマスタリング相当): 全体として平均振幅レベル(RMS)が高く、波形が上限・下限近くまで高密度に詰まった形状を示します。これはデジタルリミッティングおよびコンプレッションによるダイナミックレンジ圧縮が強く施されていることを示唆しており、実効的な音圧を引き上げるマスタリング設計となっています。

4. 周波数軸解析:スペクトル分布と帯域バランス

自作RTAソフトを用いた、楽曲『駅』の周波数軸におけるエネルギー分布の解析結果です。

  • 共通の帯域制限: 両音源とも44.1kHzサンプリング由来のナイキスト周波数(22.05kHz)直前の約20kHz付近で急峻なカットオフ特性を示します。
  • スペクトル形状の対比:
    • 中森版: 100Hz〜200Hz周辺の低域エネルギーが相対的に高く、1kHz以上の帯域は高域に向かってなだらかに減衰する右下がりのスペクトル傾斜を持ちます。
    • 竹内版: 1kHz〜5kHz周辺の中高域(プレゼンス帯域)のエネルギーが相対的に高く維持されており、よりフラットに近いスペクトル分布を示します。この帯域の強調は、輪郭の明瞭度を向上させる設計思想に由来するものと推定されます。

5. マスタリング設計思想と技術的トレードオフの整理

楽曲『駅』の解析により、同一楽曲であってもターゲットとする再生環境や仕様の差異により、以下の技術的トレードオフが選択されていることが実証されました。

解析項目中森明菜版『駅』 (2012)竹内まりや版『駅』 (2008)
主眼とする設計思想ダイナミクスと過渡応答の保持明瞭度と実効音圧の確保
時間軸特性原音の強弱に忠実な広いレンジ高RMSによる高密度な波形
周波数軸特性低域寄りのエネルギー分布中高域(プレゼンス)の強調
技術的トレードオフ平均音圧は低いが、打楽器等のトランジェントを損なわない。ダイナミクスは圧縮されるが、小口径スピーカーや騒音下でも明瞭に聴取可能。

マスタリングにおけるレベル管理と帯域設計は、リリースの時代背景やフォーマットの特性に基づいた技術的選択の結果であり、本解析結果はその設計思想の違いを物理データとして明確に可視化するものとなりました。

当カテゴリーでの分析結果は、特定の製品を批判するものではありません。詳細な運営方針については、以下のボタンよりご確認ください。

データ分析・プロンプト設計協力: Google Gemini
記事生成・執筆協力: Music RTA 専門AI (NotebookLM)

今回聴き比べた名盤リスト

■ 中森明菜 / 竹内まりや – 駅 –
中森明菜版(2012)の過渡応答とダイナミクスを重視した低RMS設計と、竹内まりや版(2008)の現代的な明瞭度と音圧を優先した高RMS設計の対比、およびエネルギー分布(低域重視かプレゼンス重視か)の差異が物理特性上の主要な注目点です。

■ 中森明菜 / CRIMSON

■ 竹内まりや / Expressions

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